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執筆者の写真峯元高志

【シーズン2:第2話後半】BIPVの今        (S2:BIPVの未来~ZEBのキー~)

今回は、普及に深く関わる標準化とはなにか、試験規格、認証そして、


BIPVの適用状況と標準化への課題、BIPVの多面的な価値についてお話しします。





 

第2話のポイント


①BIPVの導入の今

②BIPVの特徴

③PVの標準化


今回は第2話の後半として③をお話しします。



 

ポイント③「PVの標準化


まず、標準化とは何でしょうか?


太陽電池だけでなく、広く一般的な話をした後に太陽電池、そしてBIPVに話を絞っていきたいと思います。


これから丁寧に説明していきますが、お伝えしたい結論は、

グローバル化が進んでいる今、国際標準化(国際規格)が重要であるということです。


さて、標準化ですが、以下は、日本産業標準調査会のHPの文言の引用です。


標準化、即ち、Standardization、とは、

「自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化する事柄を少数化、単純化、秩序化すること」です。と説明されています。


繰り返すと、少数化、単純化、秩序化です。


標準化の例としては、皆さんの身の回りの物の多くが標準化されていて、

例えば、キーボードの配列なんかもそうですし、乾電池の大きさ、シャーペンと芯なんかも、身の回りの代表例です。


では、次に標準化に深くかかわる、標準=規格とはなんでしょうか?




英語で言うとStandardsです。


「規格は、標準化によって制定される取り決めと定義されます」とあります。


皆さん聞いたことがあるJISとは、日本産業規格のことです。


日本の国家規格で、日本の産業製品の規格・測定法などを定めるものです。


つまり、国が定める、製品やサービスの標準、例えば、太陽電池の場合には、

こんな条件の下で性能を測定するとか、こんな試験(例えば、高温・高湿試験などですね)の後に、性能がある一定の範囲に収まるといったことです。


では、標準化の意義とはなんでしょうか?




標準化の意義です。


こちらも日本産業標準調査会HPにある記載です。


対象は、自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化してしまう、

「製品」や「サービス」、そう製品だけではなく「サービス」もあるんですね。


6つの観点があります。


1つ目が、互換性、インターフェースの整合性、生産効率向上、品質確保です。


互換性は、先にもお話しした電池のサイズとか、コンセントとプラグなどです。


品質の確保というのが、太陽電池に深くかかわると思います。



2つ目が、安心・安全の確保、消費者保護です。


例えば、板ガラスでは品質や厚さの種類が決められているのでどこの製品でも安心であるとか、マンホールのふたは形・寸法・強度が決められているので安全に使用できるなどです。



3つ目が、正確な情報の伝達、相互理解の促進です。


例えば、非常口を示すこのマークです。


文字・言葉の壁を超えて情報伝達ができるもので、

これは日本が提案して、国際規格になっています。


国際規格の重要性はまた後程お話しいたします。


4つ目が、環境保護(省エネ、リサイクル等)です。


5つ目が、高齢者、障がい者への配慮です。


これは、例えば、シャンプーのボトルの側面にギザギザがついていて触ったらリンスと間違わないとか、牛乳パックの上のほうに切り欠きが入っているといったことです。


最後の6つ目が、研究開発による成果の普及、企業の競争力の強化、貿易の促進などです。


色々ありますが、普及、安全、消費者保護など含まれていて、広範囲をカバーしています。


標準化の意義とは、この6つ挙げたそれぞれの観点から、ここが重要で、技術文書として国レベルの規格、を制定し、これを全国的に統一あるいは単純化することであるといえます。


では、次に規格といえば、認証とかJISマークという言葉も皆さんお聞きになったことがあると思いますので、これらについてお話しします。




JISマーク表示制度・認証です。


これは、国によって登録された民間の第三者機関(これを登録認証機関といいます)から、該当JISへの適合性に関する審査を受けて、その結果、審査に合格すれば、認証を受けられると、この認証をもって、JISマークを表示することができる制度、

これをJISマーク表示制度といいます。


認証を受けるには、適合性の関する審査が必要とありますが、これについてもう少しお話しします。


どういった観点でJISへの適合性評価を行うかというと、

登録認証機関が、

品質管理体制の基準適合性、及び、製品試験について、

当該JISへの適合性評価を行うとあります。

つまり、製品そのものの試験だけではなくて、

製品を安定して生み出す、品質管理体制についても評価されるというとです。

これら評価基準に全て適合していると確認されると、認証されるというものです。


で、次に、太陽電池モジュールの具体例に進みたいのですが、

その前に国際標準化について触れておく必要があります。




国際標準化とはなんでしょうか?


言葉の通りなんですが、定義はこの通りです。


国際標準化とは、いろいろな製品や事柄についてモノを製造したり 行ったりする際の、

世界共通の決めごと(国際規格)を定めること。


これを、国際標準化といいます。


太陽電池に関する国際規格は、IEC規格です。


IECとはInternational Electrotechnical Commissionの略です。


国際規格の重要性ですが、国際規格を使ってつくられたものであれば、

どこの国でも、同じように使用することができるようになる。ということです。


国際規格に則っていれば、

例えば、日本で作ったモジュールを、海外でも一定の安心をもって使ってもらえたり、

海外、例えば今のPVの生産の中心は中国なので、中国で製造されたモジュールも国際規格を通っていれば、一定の安心のもと使用することができる、というものです。


では、太陽電池の認証の具体例についてお話ししたいと思います。




JETPVm認証はPVモジュールの認証で二つからなっています。


一つ目が、認証対象モデルに対する認証試験です。


ここでは、国際規格のIEC規格あるいは、JIS規格(これはIECに対応してます)に沿った試験がされます。


二つ目は、その製品を製造する製造工場等に対して工場調査を行い、認証基準に適合していることを確認することです。


この両者が、認証基準に適合しているとされれば、晴れて登録ということになります。


つまり、 JET認証書番号というのが与えられて、登録リストに載ります。


このリストは、JET様のHPから誰でもダウンロードできます。


そして、太陽電池モジュールの仕様表(カタログですね)に、この認証書番号を記載すれば、

JETのリストにも載っているし、しっかり認証取っているんだなという事が第三者からもわかる様になっています。




JETPVm認証には、旧試験基準と新試験基準の両方があってどちらでも選択できます。


旧試験基準は、JISの規格を用います。JISC8990と8992-1と-2です。


これは国際規格であるIEC規格に対応しています。


結晶Si太陽電池の規格はこれらで、薄膜太陽電池はここには書いていませんが、JISC8991です。


規格の中身を閲覧したい場合には、JISのホームページから検索できます。


最近、一部規格の規格番号が切り替えられたとのことで、

検索には、C8990と打ち込むのではなくて、アルファベットのCと国際規格の5桁を入れると出てきます。


中身を見てみると面白いです。


ここでは新試験基準についてお話ししていきます。


新試験基準、2016年以降発行の

性能の試験規則の IEC61215

安全の試験規格で IEC61730

シリーズの規格による試験基準です。


旧の方の番号とも対応していますね。


では、次にこの試験規格について話を進めます。




まず、 性能の試験規格です。


IEC61215 Ed.1 (2016年)がその規格です。


Terrestrial photovoltaic (PV) modules-Design qualification and type approvalです。


Terrestrial photovoltaic (PV) modulesとは日本語では地上設置の太陽電池(PV)モジュール、

Design qualification and type approvalとは設計適格性確認及び型式認証です。


このIEC61215が、Part別になっていて、


IEC61215-1 つまり、Part1がTest Requirements すなわち、試験要求事項です。


IEC61215-2 つまり、Part2がTest Procedures すなわち、試験方法です。


そして、IEC61215-1-1、この最後のナンバーが太陽電池の発電層の種類によって変わるのですが、1の場合は、結晶Siの試験に関する特別要求事項です。


このナンバーの2が、カドミウムテルル薄膜、3が非晶質系Si薄膜、4がCIS系薄膜に対応しています。


太陽電池は様々な種類のものが開発されています。


これだけを見ると、現在市場に広く出ている太陽電池というのは、

認証されているものが主流であるとすると、

この4種類(つまり、結晶Si系、CdTe薄膜、Si薄膜、そしてCIS系薄膜)に大別されるといえるのではと思います。


もちろん、他にも色素増感型、有機薄膜、ペロブスカイト薄膜などの、超低コストかつ高効率が期待できる、魅力的な材料が複数、研究開発されています。


こういった、様々な太陽電池については、また、別のシーズンで触れたいと思います。


では、この試験内容について簡単にですが、触れたいと思います。



性能の試験規格の項目です。


18におよぶ検査・測定・試験に関する項目があります。


これらについて、

目的・試験装置・条件、手順、要求事項(つまり合否基準と思えばいいと思います)が記載されています。


さらに、原理とか考え方も書かれていますので、太陽電池モジュールの動作の理解にも非常に役立ちます。


具体的な18項目がこちらです。




今回は詳細を説明はしませんが、

大体の項目は、この名前を見ただけでなんとなく想像が付くと思います。


例えば、目視検査、絶縁試験、基準状態での性能とか温度サイクル試験なんかは中身の詳細はわからなくてもこんなことをするんだろうなーというイメージが湧くので、中身を見れば理解しやすいと思います。


ただ、ホットスポットとか、バイパスダイオードとなると、どういうことを指すのか、ある程度太陽電池モジュールの動作がわからないと、これらの試験の意味を理解するのが難しいと思います。


これらの考え方も記載されていますので、理解に役立つと思います。


さて、認証取得にはこれだけ多くの項目について測定や試験に合格しないといけないと思うとなんだか安心できますよね。


さらに、日本のメーカー各社は規格に則りつつ、もっと厳しい条件での試験を自社基準として実施しているそうなので、心強いですね。


試験の詳細は、是非、JISで検索して中身を見てみてください。



次に安全の試験規格についてお話しします。




IEC61730 Ed2、2016年、Photovoltaic (PV) Module safety qualificationでして、

日本語では、太陽電池(PV)モジュールの安全適格性確認です。


これもPart1と2に分かれていて、

IEC61730-1つまり、Part1が、Requirements for constructionという、構造に関する要求事項です。


これは、PVモジュールの材料や部品に適用されるものです。


IEC61730-2つまり、Part2が、Requirements for testingという試験に関する要求事項です。


さらに、IEC61730-2 Ed1 (2004年)のFireTest(火災試験)が入ってきます。


次にこの試験内容について簡単に説明します。




安全の試験規格の内容です。


どれぐらいの項目数があるかといいますと、


環境ストレス試験が6項目

これは温度サイクル試験、高温高湿試験などです。


一般検査が7項目

これは目視、STCにおける性能などです。


感電危険試験が7項目

これはインパルス電圧試験、絶縁試験などです。


耐火性試験が6項目

これは温度試験、ホットスポット耐久性試験などです。


そして、機械的ストレス試験が7項目

これは温度試験、ホットスポット耐久性試験などです。


合計33項目ということになります。


ほんと多いですよね。


認証の大変さ、大切さがわかると思います。


こちらの規格も一度、JIS規格検索からご欄になってもいいと思います。


さて、ようやくですが、BIPVの規格に関するお話しに入っていきたいと思います。




ビルへの適用(といいますが、BIPVなのでビルへの組み込みといった方がわかりやすかもしれません)に関するBIPVの設計についてです。


こちらの内容は、石井久史さんが執筆された「BIPVモジュールおよびシステムの国際標準化に向けた建築技術的課題」という技術報告の内容を、引用、および、大変参考にさせていただきました。


BIPVの設計は、設置高さ・設置部位・地域、デザインなどで、変化します。


例えば、設置高さ・設置部位・地域によって風圧力が変わります。


つまり、高層のビルで、高くなるほど風がきつい、つまり、風圧力が大きいという感じです。


そうなると、その風圧力によって、ガラス厚・構成を、適用する高さ・部位によって、

変えるのが一般的ということになります。


補足すると、下の方の階(つまり、低層階)だと、風が強くないのであれば、高層で使われるような耐風圧が高いものを使う必要がないということです。


ということは、BIPVで考えると、型式認証を受けたPVモジュールを1種類だけ使う場合、

認証を受けた製品のガラス厚みなどのスペックは勝手には変えられないので、適用部位・高さに対する、個別の対応が難しくなります。


そうなると、低層と高層どちらに合わせるかというと、当然、

高層での風圧力に適した(というか耐えられる)スペックを持ったPVモジュールを使うとすれば、下層にそれを適用する場合には、必要とされるスペックよりも高いものを使うことになるので、オーバースペックになる、無駄といいますか贅沢が生じる、ということが考えられます。


また、ビルの部位によって、BIPVのサイズ、形を変えることもあると思いますので、この場合にも、認証を受けた1つのモジュールでは対応が難しくなるという事になります。


次にデザイン性の例です。




この写真はBIPVそのものではないのですが、

結晶Si太陽電池をガラスでサンドイッチした、ダブルガラスの結晶SiPVの例です。


この構成だと、結晶Siセル(この正方形ものですね)とセルの隙間から向こうを見通せる、この写真だと空が見えると思います。


ということは、セルとセルの隙間を空ければ、光の透過が大きくできたり、

セルをデザイン的に配置、といいますか、例えば、何かの模様とか、マークとか、文字とかも表現できると思います。


こうすれば、意匠性、メッセージ性にも対応ができます。


一方で、先ほどの風圧の件と同様に、

型式認証を受けたPVモジュール一つでは、個別対応が難しくなります。


ここでは、二つほど多様性の例をお話ししました。


こうした多様性のあるBIPVは実務上どのように対応されているかというと、ここからも参考文献の通りですが、建築とPVの関連業種が協議して、要求仕様を整理して、自主的な検証を行って、導入しているということです。


認証を取っていなかったとしても、もともとPVメーカは認証よりも厳しい試験もしますし、そのノウハウも持っていると思いますので、しっかりとした品質を関係者の責任で担保してきたということです。




では、BIPVの規格はどうなっているのかというと、既にヨーロッパの規格があります。


EN50583です。


ここでの経験を活用して、現在、国際規格であるIEC63092が作成されている所です。


Photovoltaics in Buildingsで、

パート1がPVモジュール、パート2がPVシステムです。


ということで、やはり、国際規格化は重要であるということで進められています。


BIPVの国際規格化を進めるには、建築、材料、電気に跨る関係業種の方々の協働が必須です。


この協働がもっと進んでくれば、

関係業種間でBIPVの理解が深まり、

取り組みやすくなって、

参入しやすくなって、

市場拡大・普及に繋がると思います。


ただ、その前提としてBIPVの総合的な価値を見極め、向上させる必要があると思います。


これが今回の最後の内容です。BIPVの総合的な価値とはどんなものが考えられるでしょうか?




もちろん、まず、発電量という価値です。


自家消費(場合によっては売電することで)で電気代を抑えたり、売電収入が得られます。


発電量を上げるか、

BIPVシステムのコスト(イニシャル、ランニング(O&M)、廃棄も含めたトータルのコスト)が下がれば、

発電単価を下げることになるので、より価値が高まると思います。


発電量を上げるという事で、太陽電池の高効率化も依然として取り組むべきテーマです。


これに加えて、使われるべき外皮の建材をBIPVで代替することによる材料削減の価値です。


さらに、環境への取り組みをアピールできCSR活動に繋がるという価値です。


BIPVが建築外皮にあるということは、目に留まるところにあるということなので、

クリーンエネルギーを通じて環境に貢献しているというアピールになるので、

企業のイメージ向上効果が期待でき、

企業の社会的責任を果たすというCSR活動としての価値があると思います。


さらにさらに、ビルそのものの価値向上という価値です。


これは、当然、発電機能があるため、電力的に有利であるとか、

場合によっては停電時にも電力が利用できるというものあります。


また、先のCSRと同様なのですが、

クリーンエネルギー・環境に良いというイメージを好む、

ビルオーナーやテナントからの評価が高くなるという価値もあると思います。


価値はこれだけではないと思うのですが、

価値の定量的な評価、

そしてもちろんこれらの価値の向上が、

今後、重要になってくると思います。


これらの詳細について、発電電力量や意匠性に関する技術については次の第3話、ビルの価値向上も含めた市場に関して第4話でお話ししたいと思います。


では、今回のまとめに移りたいと思います。




 

今回のまとめ





今回の一言は・・・


「発電量+αの価値を、BIPVでビルに+」

でした。




 

■YouTube

音声で補足した内容を見たいという方はYouTubeの太陽電池大学をご覧ください。



■コメントについて

この記事は、出演者自身の経験と適宜文献を参照して考察したものです。

ベストを尽くしているつもりですが,もっと新しい情報がある!こんな考え方もある!という方は是非お知らせください。情報・考えを共有したいと思います。



 

参考資料


 

画像の出典

サムネ Photo by Richárd Ecsedi on Unsplash

本編背景 Photo by 小谢 on Unsplash

キーボード Photo by Claudiu Hegedus on Unsplash

電池など Photo by Robin Glauser on Unsplash

ガラス張りのビル Photo by Michael on Unsplash

マンホールと犬 Photo by Macro.jr on Unsplash

非常口マーク Photo by Seika I on Unsplash

握手 Photo by Cytonn Photography on Unsplash

地球儀と手 Photo by Artem Beliaikin on Unsplash

ビル Photo by Saul Flores on Unsplash

ダブルガラスの結晶SiPV Photo by Asia Chang on Unsplash

浜辺 Photo by Tyler Nix on Unsplash


 

峯元のプロフィール

 ↗新型太陽電池の開発、太陽電池の屋外評価などに関する協働はこちら

 ↗学者集団によるコンサルティング、受託研究、R&D支援はこちら


#EN50583



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