BIPVに必要とされる技術とはどういったものがあるでしょうか?
今回は第三話の後半として、寿命とメンテナンス性、そして意匠性を実現する技術についてお話しします。
第3話のポイント
①鉛直設置の特徴
②寿命とメンテナンス性
③意匠性
今回は、第3話の後半として②③についてお話しします。
ポイント②「寿命とメンテナンス性」
建物の耐用年数は、建物の寿命とは一致せず、むしろもっと長寿命なのですが、
耐用年数を目安とすると、鉄骨であれば、50年を超えてくることになります。
50年というと、通常のPVの保証期間よりもずっと長く、BIPVシステムは、メンテナンスを前提に設計する必要があります。
説明の詳細は、第二話の前半をご覧ください。
次にBIPVのメンテナンスについてお話しします。
これは傾斜面設置のPVも同様な部分もあると思いますが、メンテナンス項目として、
まずは、ちり、汚れの掃除、そして、雪・氷などの除去があります。
また、もちろん、不具合モジュールの交換や設置架台の交換があります。
そして、メンテナンスの際の条件ですが、
入居者・利用者の快適性と安全性の確保すること、
メンテナンスコストが他の建材と同等であること、
検査と必要に応じたメンテナンスは年に1回以上が望ましく、
不具合の早期発見が、稼働寿命を延ばすことになる
ということです。
次に、このメンテナンスを考慮した設計についてお話しします。
建築の設計初期から考慮すべき項目です。
まず、BIPV屋根の場合ですが、人がBIPVの上をあるくことの備えです。
BIPV屋根が一つながりだとすると、メンテの際にPVの上を歩かざるを得ない場合もあるので、それに対する備えです。
モジュールの上を歩いて、セルに圧力をかけると、これももちろん程度問題ですが、
一見して肉眼ではわからないほどの小さなクラック(マイクロクラック)が入ることがあります。
マイクロクラックを起点として、水分、封止材成分、電極材料のAgの反応による、
スネイルトレイルと言われるカタツムリが貼ったような筋ができることがあります。
これはすぐに性能を下げるわけではないのですが、不具合発生に繋がる可能性があります。
また、見た目も美しくはないと思います。
こういったことを避ける備えが必要という事です。
次に重要なのが、建築外皮、すなわち壁面とか天窓とか、通常手が届きにくいような、BIPVシステムにどうやってアクセスするのか、触れるのかということです。
次が一枚ごとの交換可能性です。
前回のホットスポットの例でも触れましたが、不具合モジュールがあると、
システム全体の発電量に影響を及ぼしかねないので、
1枚ごとに交換できるということが重要です。
また、BIPVは見えるところにある場合が多いので、
不具合による外観変化があると、交換が望ましいと言えます。
例えば、設置初期には極稀だと思いますが、
封止材が黄色っぽくなる、いわゆる、黄変を放置しておくと美しくはないですし、
その他の熱的な問題で、外観を損なう不具合もあると思いますので、
新しいものに付け替えて、すぐに使うという、Plug and Playが重要になると思います。
そして、部分影に強いPVモジュールです。
これは、前回にお話ししたように、
標準的な、空を向いている屋根置きのモジュールに対して、
壁面の方が、横を見ているというか街を見ていますので、
遮蔽物が多い可能性があります。
つまり、部分影がかかる可能性が、屋根置きよりも高いという事なので、部分影に強いモジュールが望まれます。
そして、表面洗浄の手引きと道具があります。
次に意匠性についてお話しします。
ポイント③「意匠性」
意匠性(大きさ)です。
BIPVモジュールは、ビルの壁面として利用される場合、
大きいものでは、floor to floor、つまり、
床面から上の階の床面までの高さ、日本語でいうと階高(かいだか)、
ぐらいの高さのものも、ありえます。
これって標準的なPV、いわゆるBAPVやメガソーラーに使用されているものと、
どれぐらいの差があるでしょうか?
傾斜面設置される標準的なPVですが、大きい部類に入るもので、
長辺が2m、幅が1mのものがあり、出力は400W程度です。
このあたりのお話しは、シーズン1の第4話にもありますので、みてみてください。
これは結構大きくて、立ててみると、この男性の身長を170cmとすると、身長よりも高いことになります。
これはPVモジュールでも大きいものですね。
オフィスビルの標準的な階高を4mで、例えば、開口部を3mとすると、
上の図のような感じです。
3mというと、バスケットボールのリングぐらいの高さです。
もっと大型で階高だとすると4mのものもありえるかもしれません。
そうすると、当然ですが、身長よりもだいぶ大きいことになります。
この大型化による課題が、例えば、認証です。
これは出力特性評価のためのソーラーシミュレータや、
耐久性評価のための環境チャンバーが従来のものでは、
この大型サイズに対応していない場合があります。
大型の性能測定装置、試験装置を導入するもの、この解決策ですが、
従来の試験装置に収まる、代表サンプルというものを作って、
試験を実施するのが好ましいと言えます。
ただし、このサイズ違いの影響を把握して、有効性を検証して、規格に反映する必要があります。
次は、運搬と梱包の課題です。
振動や衝撃はモジュールに破損やセルのクラックなどの不具合の原因になります。
サイズを大きくすると、振動や衝撃が加わりやすくなる可能性が、一般的には、高くなると思いますので、このケアが必要です。
また、大きくなることで、振動や衝撃への耐性そのものが下がってしまうかもしれないので、これも検討する必要があります。
大型化はつなぎ目がないといった意匠性や施工のために好まれるかもしれませんが、
ここに挙げた項目に対応していく必要があると思います。
次に意匠性(色)についてお話しします。
標準的なPVってどんな色でしょうか?
太陽光を有効に利用して、発電の出力を上げるという観点から設計されるので、
太陽光の反射を抑えて、太陽電池セルで吸収しきるということで、通常は暗い色です。
つまり、理想的には真っ黒、反射防止膜の構成などコスト的な問題で暗い青というのがあります。
こういった色は、建築の美的感覚でいうと、overloaded、ということで、
日本語でいうと、重たいとか、もう少し良い言葉でいうと重厚感があるといったイメージに繋がるようです。
次に建物の色の美的価値について触れたいと思います。
一般的には、黒や暗いグレーよりも、白や明るいグレーの建物が多いということで、
黒よりも白が人気がある、イコール、
建物の外観からいうと黒よりも白の方が、美的価値が高いとされているようです。
ここで、PVの高出力化は先にお話しした通り、黒の方が白よりも有利です。
つまり、PVの高出力化と建物としての美的価値は、相反する場合があるということです。
ビルに対してBIPVが採用されるのに、色が重要というケースであれば、
太陽電池の出力低下をなるべく抑えつつ、その色を表現できるような技術開発が必要です。
また、今からお話しする、カラー化や光透過性の確保も同様な考え方で、
建築の要求にこたえつつ、発電機能を持たせる、そして、なるべく発電の出力を上げるという事だと思います。
今回はお話しをしませんが、車に乗せるPV、つまり車載PVも白が実現できれば、
インパクトがあるように思います。
次に色調の均一性についてお話しします。
色調の均一性とは、その言葉通り、色調が均一、つまり、ムラがないことを指します。
これは結晶シリコンよりも、薄膜系PVの方が注意をする必要があるのではと思います。
薄膜系PVは、ミクロンオーダーから10nmオーダーの複数の薄膜を、ガラス・樹脂・ステンレスなどに堆積させて太陽電池を作製しますが、この膜厚・組成ムラによって、太陽電池モジュールにムラがみえる場合があります。
これはイメージ図ですが、左が完全に均一、右が若干真ん中が明るくなっています。
BAPVやメガソーラー用ならば、目につきにくかったりするので、あまり気にする必要がないかもしれませんが、BIPVでよく見える場所に設置される場合には、色調均一性が高い方が美しくて、好ましいのではないでしょうか。
次に意匠性の次の例として、光透過性についておはなしします。
これは、第2話の後半でも話しましたが、ダブルガラスの結晶Siモジュールでは、
この写真のように、セルとセルの隙間から向こう側(つまりここでは空)が見えていると思います。
結晶Siセルの粗密、つまり、被覆率によって、光の透過性を制御できます。
次にその例についてお見せします。
ここでは、ダブルガラスの結晶Siモジュールがあって、
これが、12×6=72枚の結晶Siセルから構成されている場合を考えます。
この左の図では、被覆率99%とします。
ここから、セル枚数を減らしていきます。
*YouTubeの動画の方ではグリーンが抜けて、スクリーンの向こう側が見えます。
2段抜いて、10×6=60枚にすると、被覆率が82%になります。
さらに2段抜いて、8×6=48枚にすると、被覆率が66%になります。
さらにさらに、2段抜いて、6×6=36枚にすると、被覆率が49%になり、
結構スカスカで向こうが見えます。
こんな感じで、向こうが見通せるように、光の透過性を制御することができます。
さらに、薄膜系PVの場合について考えます。
意匠性(シースルー)です。
面内に均一に光透過性を持たせることができるので、向こうが均一に見通せるということで、シースルーという言葉を、ここでは使っています。
CdTeやCIS系などの薄膜PVの場合、半導体や金属薄膜を除去することで、シースルーにできます。
例えばの図で説明しますと、以下のようになります。
*YouTubeの動画の方ではグリーンが抜けて、スクリーンの向こう側が見えます。
小さな穴が沢山均一にあいた、スクリーンプリントのマスクをかけて、
砂を吹き付けて削るという、ドライ・サンド・ブラスティングで、
薄膜層を、例えば、ドットで均一に除去して、被覆率を制御することができます。
例えば、この例では50%です。
均一に削れるので、先の結晶Siの例とはまた違った趣があります。
ただもちろん、結晶Siでもパターンを細かくして、遠目からみると向こう側が透けてみえる、シースルーを実現できます。
シースルーの結晶Siモジュールの例です。
細長い結晶Siセルを作製して、この下のイメージ図のように、細長いセルの端っこを重ねて、セル間の導通を取って、直列接続し、電極線を見えなくするという技術があります。
これをシングリングと呼びます。
こうすると、黒いラインの結晶Si太陽電池を作ることができます。
*YouTubeの動画の方ではグリーンが抜けて、スクリーンの向こう側が見えます。
そして、このラインをストライプ状に並べると、例えば、このイメージ図では、被覆率が50%ですが、間近で見れば、太陽電池モジュールだとわかりますが、少し離れると、向こうが見通せる黒っぽいガラスに見えます。
実物を見てみると、非常にキレイですし、一見して太陽電池モジュールとはわからないかもしれません。
さて、最後に意匠性(カラフル)についてお話しします。
結晶シリコン太陽電池セルの表面には反射防止膜がついていますが、
この厚みを変えて、光の干渉を制御して、反射光のスペクトルを変えることで、
様々な色を表現することができます。
これは薄膜系PVでも可能です。
こちらは、このLof solar社のHPを参考にして、作成したイメージ図です。
左から、ブラウン、ラベンダー、ブルーグレー、グリーン、ディープレッドなど、
実に様々なきれいな色を出すことができます。
こういったカラーの出番ですが、例えば、ヨーロッパなら、赤褐色(いわゆるテラコッタですね)の屋根・外皮が多くみられると思いますので、こういった赤系のカラーPVはピッタリ溶け込むことができると思います。
それでは、今回のまとめをします。
今回のまとめ
今回の一言は・・・
「意匠性を高めるオプションが豊富!」
でした。
■YouTube
音声で補足した内容を見たいという方はYouTubeの太陽電池大学をご覧ください。
■コメントについて
この記事は、出演者自身の経験と適宜文献を参照して考察したものです。
ベストを尽くしているつもりですが,もっと新しい情報がある!こんな考え方もある!という方は是非お知らせください。情報・考えを共有したいと思います。
■PVに関するキーワードを知りたい方は、シーズンK(キーワード回)の索引をご覧ください。
参考資料
画像の出典
ビルのクリーニング Photo by Ryoji Iwata on Unsplash
窓の氷 Photo by Osman Rana on Unsplash
PV設置 Photo by Science in HD on Unsplash
歩行 Photo by pixpoetry on Unsplash
手袋 Photo by Clay Banks on Unsplash
モップ Photo by pan xiaozhen on Unsplash
かたつむり いらすとやhttps://www.irasutoya.com/
指 Photo by Elia Pellegrini on Unsplash
オフィスと二人 Photo by Christina @ wocintechchat.com on Unsplash
羽 Photo by Jenelle Hayes on Unsplash
ビル Photo by Harry Shelton on Unsplash
黒いビル Photo by Chris Barbalis on Unsplash
白いビル Photo by Anastasia Dulgier on Unsplash
ダブルガラスの結晶SiPV Photo by Asia Chang on Unsplash
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