top of page
執筆者の写真峯元高志

【シーズン2:第4話後半】BIPVの未来(市場編)  (S2:BIPVの未来~ZEBのキー~)

BIPVの市場はこれからどれぐらい成長するのでしょうか?


また、導入を促進するような施策はどういったものがあるのでしょうか?


今回は、海外(ヨーロッパ)の状況も含めて、BIPVの市場についてお話しします。





 

第4話のポイント


①求められる発電コスト


②導入量とポテンシャル


③市場予測


④導入施策


⑤海外の状況



今回は、第4話の後半として③④⑤についてお話しします。


 

ポイント①「市場予測


市場予測、2030年の日本に対するものです。


前回も触れましたが、まず導入ポテンシャルを見てみると、

面積にして1.5億=10.6億m2でして、

これに太陽電池モジュールの変換効率20%、つまり、200W/m2をかけると、

31~208GWという値が得られます。




市場予測はどうなるかというと、こちらの文献にある通りですが、

面積だと、1,565万平米~5,790万平米です。


導入ポテンシャルの場合とは違って、

この市場予測の試算では、これからの効率改善も考慮されていて、

現状が19%、高効率品が25%、さらに超高効率品が30%として、

このミックスで計算されており、

3.3~12.2GWと試算されています。


これをポテンシャルと比較すると、

およそ、10分の1以下の値になっていることがわかると思います。


この値は、現状品と今後実現される超高効率品までを含んだ値ですが、


もしも、全部を超高効率の30%のものを使うとすれば、

17.4GWにまで伸びるといった試算になります。


結構大きい値ですよね。


さて、次に導入を促進する施策についてお話ししたいと思います。



 

ポイント②「導入施策」


日本の施策です。BIPVの導入の促進に関連するものです。


既に施行されているもので、「建築物省エネ法」があります。


これは「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」のことです。


これはなにかというと、建築物に「省エネ基準への適合義務」を課すというものです。




非住宅の建築物の内、延床面積が2000m2以上の大規模のものに適合義務が課せられます。


2021年4月からは、中規模、つまり、300~2000m2へも適用範囲が拡大される予定です。


適合しない場合や手続きを怠った場合にどうなるかというと、

確認や完了に関する書類が発行されず、建築の着工や開業が遅延する恐れがある

ということです。結構シリアスですね。



では、この「省エネ基準」とはなんでしょうか。


BEI(Building Energy Index)を使って適合しているのかを判断します。


日本語でいうと1次エネルギー消費量基準です。




このBEIが1.0以下であれば適合となります。


BEIの計算式はシンプルで、


設計一次エネルギー消費量を、基準一次エネルギー消費量で割ったものです。


これが1.0以下であればよいということは、

設計値が基準値よりも小さければよいということです。


この消費量の中身を見ていきます。


一次エネルギー消費とは、空調・換気・照明・給湯・昇降機のエネルギー消費量です。


実際には、事務・情報機器等のエネ消費が発生しますが、ここでは考慮に入れません。


そして基準とは、なにかというと、

地域・建物用途・使用条件などで決定される基準仕様ということです。


つまり、基準1次エネルギー消費量とは、

基準仕様の建物のエネルギー消費量ということになります。


では、設計の方はどうかというと、設計仕様における、一次エネルギー消費です。


同じ項目ですが、空調・換気・照明・給湯・昇降機です。


これから、エネルギー利用効率化設備によるエネルギー削減量、

ここにPVによるエネルギー創出が入りますので、これを引くことができます。


省エネに関して考えてみると、断熱材、ペアガラスで室内温度の維持に努めて空調のエネルギー消費を抑えるとか、高効率給湯を使うとか、光をうまく取り込むなどが考えられると思います。


こういった省エネ技術にさらに、創エネであるPVでエネルギー消費量を相殺することができれば、ぐっとエネルギー消費押させられると思います。



さて、このBEIとZEBの関係をみてみます。


ZEBの段階とBEIです。




まず、ZEB readyですが、基準に対して50%以上の省エネ、ただし、PVなどの創エネはないというものです。


1次エネルギー削減率は省エネ分と同一なので50%以上ということになります。


よって、BEIで0.5以下です。


このZEB readyの時点で、現在の建築物省エネ法の基準値である1.0の、半分です。


次の段階が、 Nearly ZEBです。省エネで50%以上、さらに創エネによって、

トータルで1次エネルギー削減率が75%以上のものです。


この場合、BEIでいうと、0より大きくて0.25以下ということになります。


そしてZEBです。 前に何もついてないネット・ゼロ・エネルギー・ビルです。


省エネで50%以上、創エネも活用して、1次エネルギー削減率が100%というものです。


BEIでいうと明瞭で、0以下です。


こういったZEBの段階を見ていくと、現在の建築物省エネ法は、ZEB化への入り口といえると思います。


それでは、次に海外の例としてヨーロッパの状況にも触れてみたいと思います。




 

ポイント③「海外の状況

欧州のBIPVの導入量についてです。


日本と比較してみたいと思います。

2015年のデータですが、日本のBIPVの導入量は60MWでした。




EUのGDPと人口は、両方とも日本のざっくり4倍程度です。


では、BIPVの導入量は日本に比べて4倍ぐらいかというと、


967MWという値がこのPVPSの資料にあります。


つまり、日本の60MWに比べて約16倍という数です。


GDPと人口というのは、あくまでも目安で4倍ですが、BIPVの導入量で16倍というのは明らかに、欧州は日本よりも一歩普及が進んでいるといえると思います。


では、次に欧州におけるBIPV適用拡大の流れについてお話しします。

年代を追ってBIPV適用の拡大の流れを見ていきたいと思います。


こちらの内容もこのPVPSの参考文献を参照しています。


参考文献中では、「数十年前」と記述があるので1990年代~2010年ぐらいだと思います。


この時期はBIPV市場が立ち上がった、小規模の時代です。




この時期の導入の駆動力は、環境と革新のイメージだったということです。


つまり、BAPVよりもBIPVの方がコスト高だったのですが、

その追加コスト=価値ですね。

これをどこに求めるのかというと、

持続可能性、環境への責任・理想のアピールということです。

つまり、数十年前は、もちろん無関係ではありませんが、

コストがBIPV適用の決定的な要素ではなかったということです。



つぎに、2010年代ぐらいからは、FiTなどのインセンティブや助成制度で、

特にフランス、イタリア、ドイツでBIPV市場が拡大したということです。



そして、2010年代後半からは、BIPV導入の駆動力は、

欧州指令による建築物のエネルギー性能の義務化であり、

これまで以上に大きなインパクトを持つということです。



これについて今からお話ししたいのですが、まずは、ここで欧州指令に触れておきます。




欧州指令とは、欧州連合(EU)における指令(Directive)です。


加盟国に対して、目的を達成することを求めるものの、その方法までは定めていない法の形態のことです。


つまり、みんなでこんな目的を達成しようと、決めるけれども、方法はおまかせしますというものです。


そして、国内において立法手続きを必要としない規則(Regulation)とは違って、

欧州指令は、ある一定期間を設けるのですが、最終的には各国で、その目的を達成するための立法手続きを行う必要があるということです。


つまり、EUで決まったら各国でも、法令を作らないといけないということで、結構な重みがあります。


ただ、通常、指令は加盟国内で適切な法令が採択されることの関して、一定の裁量を与えている。ということです。


目的達成の方法までは定めていなくて、また、一定の裁量を与えられているということで、あとでお話ししますが、建築物のエネルギー性能の基準も国によって異なります。



では、なぜ欧州指令が出されているのかについてみてみます。


欧州指令が出されている理由です。


EUでは、エネルギー消費の約40%が建築物によるものです。


日本では、約30%です。詳細はシーズン2の第1話をご覧下さい。



そして、建築物の35%が築50年以上。


確かに、ヨーロッパって長く使われた建物が多いっていうイメージがありますよね。


また、建築ストック(つまり、過去に建築されて現在も存続している建築=中古物件のことですね)これの75%、つまり、4件中3件がエネルギーが効率的に設計されていない、


さらに、建築ストックの改修は年1%の割合にとどまっているということです。


ということは、エネルギー利用の改善余地が大きいと言えます。


試算によると、ストックの改修でEU全体のエネルギー消費を5-6%も下げられるということです。


CO2の排出もこれに伴って、約5%下げられるということです。

エネルギー効率への投資は経済効果が大きく、

GDPで9%、直接雇用で1800万人の創出が見込めるということです。


こういったファクトと試算を見てみると、建築物のエネルギー効率の向上というのは、

環境と経済の両方において重要であるということがわかると思います。



では、次に、この欧州指令の中身について説明します。


この欧州指令がEPBDです。


何の略かというと、European Energy Performance of Buildings Directiveです。


日本語でいうと、建築物のエネルギー性能に関する欧州指令です。


2010年に指令が出されて、各国内で義務化の立法手続きが進行して、2018年に改訂(修正)されています。


その中身は多岐に亘っていて、例えば、リノベ―ションの長期目標を立てないといけないとか、エネルギー性能証書を建物の売却・賃貸のときに発行しないといけない等です。




ただ、最もインパクトが大きいのが、NearlyZEB(nZEBs)の義務化です。


2018年12月31日以降(すでに超えています)新築の公共建築物全て、

2020年12月31日以降の新築の建築物全てに対して、

NearlyZEBの基準に適合することが義務化されるということです。


これは2020年3月10日までに(すでに超えています)、各国の法に反映するようにと指令に記載されていますので、おそらくは、もう反映されているのだと思います。


これって結構、厳しいというか凄いことで、

2020年の大みそか以降の全ての新築はNearlyZEBであるということです。



ただし、よく読んでみると、どうもこのNearlyZEBの定義が日本の定義とは異なっているようです。次にその定義についてお話しします。


欧州指令におけるnZEBsの定義です。


これはこの下の参考文献の原文のままで重要なところをハイライトしています。




自由度を与えた文章になっています。


つまり、エネルギーの数値としては、ゼロか非常に少量

場所に関しては、その場か近く、ということで自由度があります。


これを基に、各国が、自国の状況(例えば、気候とか建築のタイプの違いとか)に応じて、nZEBsの基準を決定するということだと思います。



次にその基準についてみていきます。


エネルギー性能の基準です。


先にもお話ししましたが日本の建築物省エネ法では、

BEIが用いられており、設計1次エネルギー消費量を、基準で割ったものになっていて、

1.00よりも小さければよいとなっています。


つまり、基準は相対値です。




一方、欧州指令であるEPBDでは、

Maximum required primary energy consumptionが用いられています。


和訳すると、年間・平米辺りの必要とする最大の一次エネルギー消費量で、

単位はkWh/m2/yearです。


つまり、BEIとは違って絶対値です。


これを、EU加盟の各国で、その国に適した基準値を決めています。


つまり、国によって値が違うのですが、居住用の場合は50以下(これはZEHは可能なのでクリアできる値だと思います)、そして、

非居住用の場合には0つまり完全にZEBから270まで幅があるということです。



では、BIPVに深く関わるところで非居住用の数値を考えてみます。


nZEBsの基準の例として、フランスの非居住用建築物の値を見てみます。


幅がありますが、70~110です。




これが基準値に対してどれぐらいの割合を占めるのかというと、

フランスの数値を見つけるのが難しかったので、日本の値を見てみると、

日本の建物用途別一次消費エネルギー原単位は、390~820です。


用途別というのは、事務所・店舗・工場・倉庫・学校・病院・住宅などで、病院が突出して大きくて820、学校が一番小さくて390です。


事務所(ビル)の数値である400を使ってBEIを計算してみると、

フランスの数値が70~110なのでBEIはおよそ0.25ということになります。


もちろん日本とフランスで事務所のエネルギー消費が異なるとは思いますが、

大きくは違わないと思いますので、

フランスの基準は、日本のNearlyZEBに近い水準にあると言えると思います。


日本の建築物省エネ法の基準は、BEIで1.00以下ということなので、

EUはかなり厳しい水準を要求しています。


ZEBへの施策としては一歩先を進んでいるといえるのではないでしょうか。


EUでBIPVがどれだけ導入されるのか、これから注目が集まるでしょうし、


日本としても大変参考になると思います。


それでは今回のまとめをします。




 

今回のまとめ



今回の一言は・・・


「EUでのBIPVの伸びに注目!」

でした。




 

■YouTube

音声で補足した内容を見たいという方はYouTubeの太陽電池大学をご覧ください。


■コメントについて

この記事は、出演者自身の経験と適宜文献を参照して考察したものです。

ベストを尽くしているつもりですが,もっと新しい情報がある!こんな考え方もある!という方は是非お知らせください。情報・考えを共有したいと思います。


■PVに関するキーワードを知りたい方は、シーズンK(キーワード回)の索引をご覧ください。




 

参考資料

■NEDO高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発  動向調査等  

BIPV(建材一体型太陽光発電)に関する検討 平成28年度成果報告書 (太陽光発電技術研究組合)

NEDO成果報告書データベースよりユーザー登録後ダウンロード可能




 

画像の出典

サムネ Photo by Richárd Ecsedi on Unsplash

本編背景 Photo by 小谢 on Unsplash

天秤 Photo by Elena Mozhvilo on Unsplash

リビング Photo by Kara Eads on Unsplash

荒野と地球儀 Photo by Ben White on Unsplash

街並み Photo by Pedro Lastra on Unsplash

ガラスの地球 Photo by Greg Nunes on Unsplash

コンパス Photo by Aron Visuals on Unsplash

フランスの街並み Photo by Rob Potvin on Unsplash




 

峯元のプロフィール

 ↗新型太陽電池の開発、太陽電池の屋外評価などに関する協働はこちら

 ↗学者集団によるコンサルティング、受託研究、R&D支援はこちら



#導入ポテンシャル

#建築物省エネ法

閲覧数:338回0件のコメント

Comments


bottom of page